(旧)自立生活センター・昭島の日常

東京都昭島市でひっそりと(笑)活動している福祉団体。地域で暮らす障害者の生活サポートや情報提供、移送サービスなどをやっています。

『居場所を探して―累犯障害者たち』

居場所を探して-累犯障害者たち  長崎新聞社累犯障害者問題取材班」著



微罪を繰り返し、人生の大半を刑務所で過ごす障害者がいる。
彼らには、福祉の手が差し伸べられてこなかった。
長崎新聞社が、長期に渡り丁寧に取材してきた連載がまとめられ出版されたので、読んでみた。


帯には、こんな内容が書いてある。

帯表紙側
「差し出す手があれば、
この現実を変えられます」

厚労省局長村木厚子氏推薦
★平成24年度新聞協会賞受賞作★



帯裏表紙側
刑事司法こ常識を打ち破る新機軸
「長崎モデル」とは
障害があり犯罪を繰り返す人たちの
実像とその更生を目指す挑戦の記録








障害者は悪さをしない。
知的障害のある児童は、素直な天使のようだ。

……などというのは、世間が勝手に描いている幻想だと思う。
障害の有無に関わらず、小狡い奴はいるし、触法行為を行なう者もいる。
ただ、そういう障害者は“いないハズ”“いないもの”として、語られてこなかったようだ。


所謂“レッサーパンダ帽殺人”や“駅舎放火”“歩道橋転落”などは、特殊な事件として扱われていたと記憶している。
世間を賑わした事件では、障害者は特殊な存在でしかないのか……

福祉業界に従事している自分の周りには、そのような人たちがいないだけであって、軽微な犯罪を犯す障害者が相当数いるようだ。



本書によると、無銭飲食や万引き、賽銭盗などが主だが、現在刑務所に服役している囚人のうち、2割ほどか知的障害者疑われる者も含む)なのだという。
福祉との繋がりが無い障害者や、手帳すら持たず、そもそも障害があるという事すら認識されない者も多く居るらしい

刑期を終えて出所した後も、差し伸べる手を持ち得ない彼らは、生きていくためには再び罪を犯さざるを得ない状況が待っている。
こうして累犯障害者が増えていく。


長崎県地域生活定着支援センターのアプローチは、そんな累犯障害者たちに手を差し伸べる手段として、刑務所に入れるのではなく、福祉施設で社会訓練を積み、物事の善悪を把握させ、地域で暮らせる術を身に付け更生を促すというもの。


県内の弁護士や精神科医福祉の専門家などで構成された判定委員会により、福祉的に支援が必要な障害を持つ犯罪者を、検察や裁判所に働きかけ、裁判前の容疑者、被告の段階から関わり、社会の中で更生させる道筋を示す意見書を提出する。
これにより、執行猶予付ながら施設で更生する判決を言い渡される者が何列かあった。

これは、決して罪を免除するためではない。犯罪を自覚していない者にとっては、刑務所は雨風が凌げて食うに困らない場所でしかない。
地域の更生施設で、福祉と繋がりながら過ごす方が、コスト面も含めて意義のある事である。


ただ残念な事に、裁判所に認められない者や、福祉に繋がる事を拒む者もいたり、また、再犯により逮捕される者もいたりと、決して全てが上手くいく訳ではないようだ。


長崎県から始まったというこの試みに、福祉の現場、障害者の特性などに配慮をしてこなかった警察、検察、裁判所も、ようやく動き始めたようだし、徐々に全国にも広がりつつあるようだ。


後半には、追加で書き下ろされていて、累犯障害者の存在を白日の下に晒したと言われている、元衆議院議員の山本讓司
氏や、厚労省の局長だった村木厚子氏へのインタビューや、このシステムを構築させるに至った経緯が掲載されている。




累犯障害者の存在自体は、山本讓司氏の著作で知っていたが、“塀の中”に至る経緯や“塀の外”へ出た後の彼らはどうなったのかなど、やはり見えていなかった部分が多々あったようだし、それはこの本を読むまで全く知らなかった……。





by:は
たまには、真面目な内容も書くんだよ(笑)。