(旧)自立生活センター・昭島の日常

東京都昭島市でひっそりと(笑)活動している福祉団体。地域で暮らす障害者の生活サポートや情報提供、移送サービスなどをやっています。

『エンジョイ自立生活―障害を最高の恵みとして』




皆様、いかがお過ごしだったでしょうか?
「当事者の日常」担当のKでございます。

さて、読書感想文の4回目になります。
…今、前回の読書感想文をいつ頃書いたかチェックしてみたところ、
な・なんと・・・5月21日!う~ん、2ヶ月前ですねぇ(笑)。



閑・話・休・題・?


今回選んだ本はコチラ







ちなみに、この本の著者である樋口恵子さんは、
評論家の“樋口恵子”さんと同姓同名ですが全くの別人です。

樋口さんは脊椎カリエス身体障害者で、
八王子市にある、日本最初のCIL、ヒューマンケア協会
町田市の自立生活センター、町田ヒューマンネットワークの設立に参加し、
本が出版された当時(1998年)は、町田市の市議会議員を
されていました。

本の内容は、樋口恵子さんの半生記です。
障害者施設での体験や自立生活センター設立のキッカケになった
1年余りのアメリカ研修の話などから現在(出版当時)の
近況が書かれています。

障害者施設での体験は、その殆どが、施設で受けた“理不尽な”仕打ちに
彩られていました。その中で私が印象に残っている話は2つあります。

まず1つ目は…10代の頃、
樋口さんと同室だった人が、
自分の母親に手作りの毛糸のベストを作りました。

母親に送ってもらおうと、職員にたのんだのですが、
結局お母さんの元には届きませんでした。

樋口さんは郵便トラブルだと思い、郵便局に手紙を書いたそうです。
その後、施設に郵便局員が調査に来たのですが、
事実は意外な所にありました。

送ってもらおうと頼んだ女性職員が勝手に持ち帰り、
自分の母親に着せていたのです。
職員は本人に泣いて謝りました。

話はこれで終わりではありません。
樋口さんが部屋に1人で居る時、施設の看護婦(士)長が来て
「この事は、絶対に誰にも話さないように」と強いプレッシャーを掛けてきました。
樋口さんは35歳になるまで他人に話すことが出来なかったそうです。

2つ目は…園長先生の診察を、いつものように裸になって待っていました。
すると突然、園長先生以外にも研修医の若い男性が数人、入ってきました。
樋口さんは、とても恥ずかしく、屈辱的でも「自分が障害者だからこんな目に
遭うんだ」と諦めたと言っています。

私も障害者施設にいましたが、樋口さんの様な経験はせずに済みました。
しかし、もし自分が樋口さんと同じ立場に立たされていたら、
当時の樋口さんと同じ様に考えていたと思います。
2つの出来事は10代の子供にとって、相当ショックです。

ソレを思うと、何とも言えない気持ちになりました。

ただ、その障害者施設で、将来の夫である“近藤さん(原文ママ)”
に出会っています。


施設を出た後、近藤さんと一緒に暮らし始まるなど様々なことがありました。
そして、1984年樋口さんは念願だったアメリカ研修を実現させます。

樋口さんはある制度を利用しました。それは、国際障害者年の1981年から
始まった“財団法人・広げよう愛の輪基金(※)”というモノで、
10年間、年10組の障害者の米国への研修を援助する奨学生制度です。

樋口さんは、第4期生の試験に見事合格し、バークレーに行くことが
決まったものの、ソレと引き換えに当時勤めていた町田市の非常勤職員を
退職することになってしまったのです。

アメリカに行き着くまで、紆余曲折ありましたが、アメリカ研修に関する文章は
今までのウップンを晴らすかのように、明るい雰囲気で綴られていました。

特にアメリカの自立生活運動のリーダー達に遭い、自立生活センターの
考え方「自己選択・自己決定」等に触れた時の素直な驚きは、私自身が
初めてCIL・昭島を訪れた時と非常に強くダブり、当時の事を思い出しながら、
微笑ましく読むことが出来ました。

アメリカ研修ではバークレーの他に、ワシントンDCでもアメリカ人障害者の下で
研修したことも書かれていました。


それから樋口さんは1986年に帰国すると、同じ様にアメリカで
研修を受けた障害当事者達と共に日本での自立生活センターの設立に向けて動き出すのです。
先の文章でも少し触れた八王子のヒューマンケア協会と町田ヒューマンネットワークの設立と
業務開始時の試行錯誤する様子が実に細かく描写されています。
この他にも、安積遊歩さん達と参加した、障害者や女性の世界大会の事も書いてありました。
世界各国の補装具(車イスや杖など)についても少し書かれていて、興味深かったです。


町田市議会議員としての活動は、樋口さんが質問し、それに対して市長や教育長などが
応答するという質疑応答の形で主に書かれていました。
質問の内容は…

      ①子供の権利条約に基づく障害児を含む子供たちの教育に関する事。
      ②町田市の障害者・高齢者福祉政策について。
      ③町田市内を走るバスのノンステップバス化について。

……だったと思います(笑)。

質疑応答形式で書かれた文章は、読んでいて市議会を傍聴している気分になるくらい
臨場感がありました。


最後は自立生活センターの重要な業務の1つ“ピア・カウンセリング(ピアカン)”に
ついて触れられています。
樋口さんは自分自身の体験を交えながら、実に丁寧にピアカンの有効性について
書いています。

私も何度か受けたことがあるので、有効性は分かるのですが…
樋口さんの体験を書いた文章で、有効性を強調するあまり結果的に同じ事の繰り返しに
なっているモノが一部あった気がします。


この後、樋口さんは2001年7月に行われた参議院選挙に立候補するのですが、
その時の決起集会に私も足を運びました。今回は会場で観た樋口さんの顔を思い出しながら
この本を読んでいました。




では、また次回  K